概要

PET(positron emission tomography)に関する最高水準の技術と経験で、疾患の病態解明や新薬開発を行っています

神戸市立医療センター中央市民病院
臨床研究推進センター
分子イメージング研究部
部長
山根 登茂彦

分子イメージングとは、生体内で行われている細胞レベル・分子レベルの活動を画像化することです。当分子イメージング研究部は、生体機能を画像化する「PET」という診断技術を活用し、疾患の病態解明や新薬開発に取り組んでいます。

当研究部の主なミッションとして、PETに関する治験薬製造と治験実施、臨床研究、撮像・解析法開発と品質管理があります。2008年から治験業務を実施し、2011年には治験薬GMP基準に適合したホットラボを新たに整備しました*1。これらの実績とインフラが高く評価され、国内外の製薬企業からさまざまなPET治験薬製造やPETを用いた治験を受託しています。

また市民病院として、臨床研究を通じて得られた最先端の研究成果を市民の皆様に提供する体制づくりに努めております。これまでに培った創薬・撮像・品質管理のノウハウを最大限に活用し、PETを用いた安全かつ有効性の高い診断技術を開発し、医療の進歩に貢献していきます。

*1 当時は「先端医療センター」として実施しました。先端医療センターは2017年11月に神戸市立医療センター中央市民病院に移管統合されました。

PET治験薬製造事業

日本有数のPET治験薬GMP体制を完備

当研究部は、2008年にPET治験を開始し、2011年には治験薬GMP基準に適合したホットラボを新たに整備しました*1。これらの実績とインフラが高く評価され、国内外の製薬企業からさまざまなPET治験薬製造を受託しています。当院で製造されたPET治験薬は、当院で使用されるほか、近隣の医療機関にも輸送されてPET治験に使用されています。

当院は、小型サイクロトロンと2つのPET薬剤製造ホットラボエリア(治験薬GMP対応ラボと学会GMP対応ラボ)を保有しています。PET薬剤を治験に使用する場合(PET診断薬の治験や治療薬治験のPET試験)のように、世界基準の高度な品質管理と品質保証、クリーン度が要求されるPET治験薬の製造については、治験薬GMP対応ラボを使用しています。

PET治験薬の製造はパートナー事業者と連携し、PET薬剤の製造や管理の専門家が対応します。これまでの経験を活かし、製造のみならず法規制への対応や関係書類の整備についても、依頼企業などにアドバイスしています。

治験以外の臨床研究用のPET薬剤の院内製造も多数行っており、新しいPET薬剤の合成方法の開発や改良をしています。

*1 当時は「先端医療センター」として実施しました。先端医療センターは2017年11月に神戸市立医療センター中央市民病院に移管統合されました。

  • Iimori H, Hashizume Y, Sasaki M, et al. First automatic radiosynthesis of 11C labeled Telmisartan using a multipurpose synthesizer for clinical research use. Ann Nucl Med. 2011;25:333-337.

PET治験

経験豊富なスタッフがあらゆるタイプのPET治験に対応

PET治験では、時々刻々と放射能が減衰する放射性薬剤を取り扱います。それ以外にも、被験者の取扱い、撮像、画像処理など、他の一般的な医薬品の治験と異なる要素があります。当院ではPET治験に関して経験豊かなスタッフ(医師、診療放射線技師、看護師、治験コーディネーター)が、万全の体制で対応します。

当院はPET/CT装置3台を保有しています。うち1台は治験・臨床研究専用として使用しており、治験スケジュールに合わせた柔軟な対応が可能です。治験薬製造施設と撮像施設が一体化していることから、あらゆるPET薬剤の条件に合わせた対応が可能です。11Cなど、18F以外の核種を用いたPET治験にも対応できます。

PET治験の種類

PET治験には、薬物動態試験、治療薬治験でのサロゲートマーカーとしてのPET治験、PET診断薬としての治験など、いくつかのタイプがあります。

薬物動態試験

治療薬のヒトにおける臓器の体内動態を把握することができれば、標的臓器への分布を見ることで薬効を予測することができます。また、また標的組織以外への分布を見ることで副作用を予測することも可能です。候補化合物をポジトロン放出核種で標識することができる場合は、PETによる薬物動態試験が可能となります。治療薬が薬理作用を発現する濃度よりずっと低い物質量(マイクロドーズ)の投与で、その全身分布を把握する場合はPETマイクロドーズ試験(Phase-0)となり、通常のPhase-I試験よりも容易に実施できます。このような手法にPETを活用することで、治験をより効率的に実施できることが期待されます。

サロゲートマーカーとしてのPET治験

治験は薬効に応じたゴール(エンドポイント)の設定が必要で、通常は症状消失、検査値の改善、無再発生存や総生存の延長などが設定されます。しかしなかには、その評価が容易でない場合もあります。疾患の原因となる臓器や体内組織が明らかで病態の本質(代謝や受容体などの生物学的性質)を評価できるPET薬剤があれば、PETを代替的な治療指標(サロゲートマーカー)として活用できます。また、治験の被験者をリクルートする際にも、PETをマーカーとして利用できます。

とくに治療薬の標的(ターゲット)を評価できるPET薬剤があればきわめて有用です。たとえばアルツハイマー病治療薬の治験においては脳内アミロイドやタウの沈着が、精神疾患の治療薬の治験では脳の受容体やトランスポータがPETで評価されています。抗悪性腫瘍薬の治験では、糖代謝、受容体、血管新生、免疫反応などがそれぞれPETで評価可能です。このような治療薬治験でのPETによる被験者選択と薬理効果の評価は、他によい評価方法が無い疾患や治療薬で重宝され、とくに早期相治験での用量設定や以後の開発方針決定に役立ちます。なお、ここで用いられるPET薬剤は診断薬として承認されている必要はなく、承認申請を前提とする必要もありません。

診断薬としてのPET医薬品の治験

画像診断的手法として一般に使用されるCTやMRIはおもに形態を評価するものですが、PETは機能を評価することができます。この特徴を活かし、疾患の鑑別や機能評価を従来よりも正確に行い、患者を治療方針によって層別化できることがPETに期待されます。PET診断薬は半減期が短いため、わが国では医薬品として承認されるほか、院内製造のための合成装置が医療機器として承認されています。現在わが国で承認されているPET診断薬は、悪性腫瘍を主な対象疾患とする18F-FDGなど数種類に限られています。一方で、脳、心臓、腫瘍、炎症等を対象とした多くのPET診断薬が国内外で研究開発されており、そのために診断薬としての有効性を評価する治験が行われます。さらに基礎研究分野においても多くの候補薬があり、今後多くのPET診断薬の登場が待たれます。なおPET診断薬の第I相治験では、安全性確認と標的臓器への集積以外に、経時採血による血中薬物動態と血中標識代謝物の測定や、全身撮像の繰り返しによる被ばく線量の測定といった、通常のPET撮像とは全く異なる測定が行われます。

このようにPETを有効活用することで、治験をよりスムーズに進められることが期待されています。
当院の分子イメージング研究部では、アミロイドPET薬剤やタウPET薬剤の第I相治験を実施したほか、アルツハイマー病治療薬治験でのこれらのPET薬剤によるPET試験をさかんに行っています。被験者の募集についても、KOBEもの忘れネットワークといった仕組みを活用し、すみやかな治験が実施できるよう協力しています。

  • Nakano M, Nakamura T, Takita Y, et al. Radiation dosimetry and pharmacokinetics of florbetapir (18F) in Japanese subjects. Ann Nucl Med. 2019;33:639-645.
  • Miki T, Shimada H, Kim JS, et al. Brain uptake and safety of Flutemetamol F 18 injection in Japanese subjects with probable Alzheimer’s disease, subjects with amnestic mild cognitive impairment and healthy volunteers. Ann Nucl Med. 2017;31:260-272.
  • Senda M, Yamamoto Y, Sasaki M, et al. An exploratory efficacy study of the amyloid imaging agent [18F]flutemetamol in Japanese Subjects. Ann Nucl Med. 2015;29:391-399.
  • Senda M, Brooks DJ, Farrar G, et al. The clinical safety, biodistribution and internal radiation dosimetry of flutemetamol (18F) injection in healthy Japanese adult volunteers. Ann Nucl Med.
  • Senda M, Sasaki M, Yamane T, et al. Ethnic comparison of pharmacokinetics of 18F-florbetaben, a PET tracer for beta-amyloid imaging, in healthy Caucasian and Japanese subjects. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2015;42:89-96.

PET臨床研究

他施設からの研究PETも受託

治験以外に、PETを利用した臨床研究にも積極的に取り組んでいます。未承認PET薬剤を院内製造し、疾患の病態生理の解明、対象患者の層別化、PET薬剤の有効性に関する臨床研究を行っております。対象は、さまざまな悪性腫瘍、アルツハイマー病、パーキンソン病など多岐にわたります。神戸市立医療センター中央市民病院の各臨床科との共同研究の他、神戸大学など院外の医療機関からの被験者も受け入れています。また、理化学研究所との共同研究としては、ヒトを対象とするPET薬物動態試験や、世界初となるPET薬剤をヒトに初めて投与するFirst-in-human試験を実施し、安全性、有効性、全身分布等を評価しました。現在も多くのPET薬剤に関する臨床研究を実施中です。また、アルツハイマー病をテーマとする国家プロジェクトであるJ-ADNIやAMEDプレクリニカルプロジェクトなどに参加しました。

研究目的でのPET撮像依頼や共同研究も受けています。PETを用いた臨床研究を行いたいが自施設にPETが無い、あるいはPETがあっても臨床研究に対応していない、という場合など、お気軽にご相談ください。

  • Senda M, Ishii K, Ito K, et al. A Japanese multicenter study on PET and other biomarkers for subjects with potential preclinical and prodromal Alzheimer’s disease. J Prev Alzheimers Dis. 8;495-502:2021.
  • Watanabe Y, Mawatari A, Aita K, et al. PET imaging of 11C-labeled thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide, vitamin B1 derivative: First-in-human study. Biochem Biophys Res Commun. 2021;555:7-12.
  • Akamatsu G, Ohnishi A, Aita K, et al. A revisit to quantitative PET with 18F-FDOPA of high specific activity using a high-resolution condition in view of application to regenerative therapy. Ann Nucl Med. 2017;31:163-171.
  • Ohnishi A, Senda M, Yamane T, et al. Exploratory human PET study of the effectiveness of 11C-ketoprofen methyl ester, a potential biomarker of neuroinflammatory processes in Alzheimer’s disease. Nucl Med Biol. 2016;43:438-444.
  • Ohnishi A, Senda M, Yamane T, et al. Human whole-body biodistribution and dosimetry of a new PET tracer, [11C]ketoprofen methyl ester, for imagings of neuroinflammation. Nucl Med Biol. 2014;41:594-599.
  • Yamane T, Takaoka A, Kita M, Imai Y, Senda M. 18F-FLT PET performs better than 18F-FDG PET in differentiating malignant uterine corpus tumors from benign leiomyoma. Ann Nucl Med. 2012;26:478-484.
  • Maeda K, Ohnishi A, Sasaki M, et al. Quantitative investigation of hepatobiliary transport of [11C]telmisartan in humans by PET imaging. Drug Metab Pharmacokinet. 2019;34:293-299.
  • Shimizu K, Takashima T, Yamane T, et al. Whole-body distribution and radiation dosimetry of [11C]telmisartan as a biomarker for hepatic organic anion transporting polypeptide (OATP) 1B3. Nucl Med Biol. 2012;39:847-853.
  • Kikuchi M, Yamane T, Shinohara S, et al. 18F-fluoromisonidazole positron emission tomography before treatment is a predictor of radiotherapy outcome and survival prognosis in patients with head and neck squamous cell carcinoma. Ann Nucl Med. 2011;25:625-633.
  • Yamane T, Kikuchi M, Shinohara S, Senda M. Reduction of [18F]fluoromisonidazole uptake after neoadjuvant chemotherapy for head and neck squamous cell carcinoma. Mol Imaging Biol. 2011;13:227-231.
  • Yamane T, Sakamoto S, Senda M. Clinical impact of 11C-methionine PET on expected management of patients with brain neoplasm. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2010;37:685-690.
  • Senda M, Kubo N, Adachi K, et al. Cerebral histamine H1 receptor binding potential measured with PET under a test dose of olopatadine, an antihistamine, is reduced after repeated administration of olopatadine. J Nucl Med. 2009;50:887-892.

PET精度管理

PET精度管理・多施設研究コア

より精度の高いPET撮像・健全なPET研究を推進

PETはその性質上、画質と定量値や診断能が、用いる撮像装置(PETカメラ)や撮像方法の詳細と画像の評価解析方法に依存します。したがって、信頼性の高い普遍的な検査法として確立させるには、方法の標準化が必要です。また、撮像方法や画像解析方法を工夫することによって、新たな情報や精度の高い情報が得られることもあります。当研究部では、このような方法論の研究開発にも取り組んでいます。

脳の多施設臨床研究のPETコアと標準化

多施設PET臨床研究では、必然的にPET施設によってPETカメラが異なります。施設によって経験や体制もさまざまです。信頼性のある多施設PETデータベースを構築し、PETのイメージングバイオマーカーとしての健全な利用を推進するには、標準化とデータの品質管理が必要です。アルツハイマー病をテーマとする多施設臨床研究の国家プロジェクトであるJ-ADNIやAMEDプレクリニカルプロジェクトでは、当院にてPET撮像を行うことに加え、多施設研究の「PETコア」として全国の参加PET施設のPET撮像の標準化とデータの品質管理を行うという大きな役割を担いました。脳のFDGやアミロイドPETに対するPETコアとしての成果は、その後日本核医学会による標準的プロトコールとPET撮像施設認証制度に採用されて当該プロジェクト以外にも普及し、全国のPET施設における質の向上に役立っています。

  • Senda M. Standardization of PET imaging and site qualification program by JSNM: collaboration with EANM/EARL. Ann Nucl Med. 2020;34:873-874.
  • Akamatsu G, Ikari Y, Ohnishi A, et al. Voxel-based statistical analysis and quantification of amyloid PET in the Japanese Alzheimer’s disease neuroimaging initiative (J-ADNI) multi-center study. EJNMMI Res. 2019;9:91.
  • Akamatsu G, Nishio T, Adachi K, Ikari Y, Senda M. Whole-body biodistribution and the influence of body activity on brain kinetic analysis of the 11C-PiB PET scan. Radiol Phys Technol. 2017;10:464-474.
  • Yamane T, Ishii K, Sakata M, et al. Inter-rater variability of visual interpretation and comparison with quantitative evaluation of 11C-PiB PET amyloid images of the Japanese Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative (J-ADNI) multicenter study. Eur J Nucl Med Mol Imaging. 2017;44:850-857.
  • Akamatsu G, Ikari Y, Nishio T, et al. Optimization of image reconstruction conditions with phantoms for brain FDG and amyloid PET imaging. Ann Nucl Med. 2016;30:18-28.
  • Ikari Y, Akamatsu G, Nishio T, et al. Phantom criteria for qualification of brain FDG and amyloid PET across different cameras. EJNMMI Phys. 2016;3:23.
  • Yamane T, Ikari Y, Nishio T, Ishii K, Ishii K, Kato T, et al. Visual-statistical interpretation of 18F-FDG-PET images for characteristic Alzheimer patterns in a multicenter study: inter-rater concordance and relationship to automated quantitative evaluation. AJNR Am J Neuroradiol. 2014;35:244-9.
  • Ikari Y, Nishio T, Makishi Y, et al. Head motion evaluation and correction for PET scans with 18F-FDG in the Japanese Alzheimer’s disease neuroimaging initiative (J-ADNI) multi-center study. Ann Nucl Med. 2012;26:535-544.