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脈波伝播速度 (pulse wave velocity: PWV)


脈波伝播速度の歴史

 左手で自分の右頸動脈の脈を、右手で自分の右大腿動脈の脈を触ると、右大腿動脈の脈の遅れを感じます。これは、心臓の拍出によって生じる脈波が、末梢に伝わるのに時間を要するからです。
 最初(1922年頃)に行われた脈波が伝わる速度の研究では、右頸動脈 (脈波A) と右橈骨動脈 (脈波B) に脈波計をあて、それぞれの脈波の立ち上がりの時間差 (ΔT) を計測し、右胸鎖関節〜右頸動脈の測定点 (計測点A) と右胸鎖関節〜右橈骨動脈の測定点 (計測点B) の長さの差 (D) を時間差で除して右上肢の脈波伝播速度 (PWV) を求めました (1)

 このようにして得られた
PWVが年齢とよく相関したことから、PWVが血管の老化あるいは動脈硬化の指標になることが報告されました。その後、PWVについて多くの研究がなされており、現在では四肢(両上肢と両足首)に巻く血圧測定カフの脈波からPWVを測定するようになりました。各動脈名・関節名は、図2を参照して下さい。

1   (PWVによる動脈硬化早期診断、監修:西沢良記ほか、発行:協和企画、p.22より引用)


2 (人体解剖カラーアトラス 原著第5版、P.H.Abrahams, et al:佐藤達夫 訳より、一部改変)



脈波伝播速度から何がわかるの?

医療機関に受診される患者様で最も多い疾患は、高血圧、虚血性心疾患、脳血管障害などの心血管疾患です。これらの病気は、動脈硬化が原因となることが多いのです。動脈硬化は、無症候性(症状を感じない)に加齢とともに進展しますが、若年者においてもすでに動脈の硬化病変が認められています。したがって、動脈硬化は、決して中・高年者だけの病変ではなく、より早期に診断し、より早い対策をとることが重要であります。このことより、PWVの測定はより早期の動脈硬化を知るのための検査法の一つであります。




脈波伝播速度と下肢/上肢血圧比の測定および意義

1) 計測値を導き出す方法
 四肢(両上肢、両足首)に血圧測定カフを巻き、四肢血圧測定に引き続いて、低圧で巻いたカフ内の容積脈波の立ち上がりの時間差 (ΔT) を計測し、上腕−足首 (brachial ankle) 間の距離の差を時間差で除して、上腕−足首間のPWVを測定します。この方法によるPWVは上腕〜足首間で計測されるため、brachia(上腕)- ankle(足首)法、計測値は双方の頭文字を用いてba PWVと呼ばれています。ba PWV計測にあたって、大動脈弁口から上腕間距離 (Lb)、大動脈弁口〜足首間距離 (La) は身長から推定して求められます (3)。この際に、四肢の血圧から下肢/上肢血圧比 (ankle / branchial pressure index: ABPI) も同時に計測できます。すなわち、動脈壁の硬化度(動脈の硬さ)の指標であるPWVと、内腔の狭窄度の指標であるABPIを同時に測定することにより、これらの指標は動脈硬化の総合評価に役立ちます。


3 (PWVによる動脈硬化早期診断、監修:西沢良記ほか、発行:協和企画、p.23より引用)

2) 計測値の評価
 実際の報告結果を図4 に示します。
 
4 報告結果

 PWVは、年代別の基準値を参考にして、動脈硬化度をチェックできます (5)

図 5 (PWVによる動脈硬化早期診断、監修:西沢良記ほか、発行:協和企画、p.29より引用)

 また、
ABPIは、閉塞性動脈硬化 (ASO)のスクリーニングとして役立ちます。すなわち、ABPI < 0.9であれば、症状の有無にかかわらずASOが疑われます。ASO患者様の75%は虚血性心疾患や脳動脈硬化を合併しているといわれています。また、高齢者、糖尿病患者、喫煙者ではABPIの低下傾向がみられます。

3) 計測値の解釈で注意点
 通常はPWV値が高いほど、すなわち脈波の伝達が速いほど動脈硬化が進展していると考えられています。しかし、PWV値が著しく低値を示す場合には血管閉塞の可能性が考えられることから、この様な場合には他の画像診断などを含めた総合診断をしなければなりません。



脈波伝播速度の検査の実際

 脈波伝播速度 (PWV) の検査は以下の手順で行いますので、患者様のご協力をお願いしています。

1) 血圧測定カフを両上腕、両足関節に取り付けるため、患者様には両上腕、両足関節ができるように衣服をめくって頂きます。

2) 次ぎに、心音図のマイクを胸にシールで取り付けるため、上半身側の衣服の首側にあるボタンを1〜2つほど外して(ボタンがない衣服の場合には首側を少しめくらせて)頂きます。

3) 衣類の準備ができましたら、患者様にはベッドに仰臥位になって頂きます。

4) 患者様の両手両足に血圧測定カフを取り付けさせて頂きます、まず、血圧測定カフを両上腕に取り付けるため上腕を上げて頂きます。次ぎに、血圧測定カフを両足関節に取り付けるため、膝を曲げて頂きます。

5) 心音図のマイクを患者様の胸にシールで取り付けさせて頂きます。

6) PWVの計測を開始します。このとき両手両足の血圧を同時に計測するため、両手両足の血圧測定カフが締まります。このとき、締め付けが強いと感じられる患者様は、すぐに検査を中断しますので検者に申しつけ下さい。図6は、実際に検査しているところの様子です。


6 実際に検査をしている様子
7) 検査が開始して終了するまでの時間は、約5分ぐらいです。

8) 検査が終了しましたら、検者が血圧測定カフと心音図のマイクを取り外します。



検査するときの注意点

1) 血圧測定カフを巻きつけるため、厚手の上着などを着用されている際には脱いで頂くことがあります。

2) 透析をされている患者様は、透析用シャントのある腕での血圧計測はできません。したがって、左右どちらの腕に透析用シャントがあるのかを検者にお申しつけ下さい。

3) 両手両足のいずれかの痛みがひどい患者様は、痛みのある手足は外して計測を行いますので、どちらの手足に痛みがあるのかを検者にお申しつけ下さい。



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