ロボット手術センター

神戸市立医療センター中央市民病院 ロボット手術センター「安全かつ円滑に、ロボット支援(ダヴィンチ)手術の拡充を図るために。」

ロボット手術センターの新設

欧米を中心にほぼ日常診療のひとつとなりつつあるロボット手術は、日本では泌尿器科領域で保険診療がはじまってまだ5年あまりです。ここでのロボット手術は、従来の腹腔鏡・胸腔鏡にロボットを装着して行う手術のことです。創が小さくて、さらに腹腔鏡では炭酸ガスによる気腹の圧力によって出血が少ないという利点に加えて、拡大、立体視ができ、自由に動く鉗子によって細かい操作ができます。術者は遠隔操作により、カメラと3本の腕をひとりで自由自在に動かすことができます。

2018年の診療報酬改定においては胃癌だけでなく他の術式への適用の可能性もあり、今後泌尿器科以外の診療科に急速に広がることが予測されます。そこで当院では2017年5月にロボット手術センターを新設し、外科領域(胃癌、大腸癌)や産婦人科領域など、今後のさらなる広がり見据えてロボット手術の拡充を図るとともに、関係部署の連携・調整体制を強化します。

新規術式を導入するには、ロボット手術認定医の育成、複数回にわたって指導医(プロクター)を招聘して手術の導入、認定施設取得のための症例数の確保が必要です。認定医取得のためには、個々の医師が、シミュレーターを使用した練習、動物でのトレーニング、教育指定施設での手術見学が義務付けられております。また認定施設取得前には病院による一部費用負担が生じます。

そして最も重要なのが、安全に新規術式導入を行うことにあります。手術を受ける患者さんに重大な危険が及ぶことのないよう、関係部署が緊密に連携をとり、導入前にシミュレーションを繰り返し行い、手術前後で疑問点、不備なところを洗い出し解決しながら、円滑な導入ができるように手助けすることがこのセンターの使命であります。

ロボット手術センターの概要・構成診療科

構成診療科対象手術備考
泌尿器科
  • 前立腺がん(全摘除術)
  • 腎がん(腎部分切除術)
  • 膀胱がん(膀胱全摘除術)
平成26年より通常の保険診療として前立腺がん343例・腎がん76例・膀胱がん11例実施(平成29年8月現在)
外科
  • 胃がん
平成30年の保険診療を見据えて平成29年より先行実施(保険適用外)※自費診療
産婦人科
  • 子宮体がん
  • 子宮頸がん
順次対応していきます。
耳鼻咽喉科
  • 中咽頭がん
  • 下咽頭がん
  • 声門上がん
順次対応していきます。
呼吸器外科
  • 肺がん
  • 縦隔腫瘍
順次対応していきます。

当院におけるロボット支援(ダヴィンチ)手術

当院泌尿器科ではこれまで400例を超える腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術を行ってきました。この経験を生かして2014年1月のダヴィンチ手術1例目の導入は、全く問題なく順調でした。2017年9月にロボット支援根治的前立腺全摘除術350例目を達成しており、引き続き制癌と機能温存の向上を目指したいと思っております(図9)。また腎癌の部分切除術も保険適用前の2015年2月に開始し、2017年8月までに76例施行しました。三次元の視野に加え、繊細な動きのできるハサミでの切開と縫合操作の容易さから、腹腔鏡に比べ腎動脈を阻血する時間は短縮され、術後の腎機能温存も有意に向上しています。さらに、まだ保険適用のない膀胱全摘除術も11例に施行しております。

図9:当院における前立腺全摘除術の術式の年次変遷をグラフ化した画像
図9:当院における前立腺全摘除術の術式の年次変遷

ロボット支援(ダヴィンチ)手術の特徴(表1、2)

ダヴィンチはその三次元の拡大視野と操作性に優れ、腹腔鏡による気腹圧で出血量が少なく、回復がはやいという利点があります。一方で、機器本体や鉗子類のコストが高く、触覚がない、緊急時の対応がしづらいという欠点もあります。

従来手術と比べたダヴィンチ手術によるメリット・デメリット

 メリットデメリット
患者さんにとって
  • 傷が小さい。
  • 出血量が少ない。
  • 手術時間が短く、術後の回復が早い。
  • 入院期間が短い。
  • 入院費用が高い。
  • 緊急時の対応がしにくい。
術者・病院にとって
  • 視野が非常に広く、従来に比べ約10~40倍での視野を得ることが可能。
  • 機器の自由度が高く、人間には不可能な角度に機器を曲げての執刀が可能。
  • 縫合がどんな深く狭いところでも容易に可能。
  • 機器の維持コストが非常に高い
  • 直接執刀するわけではないので、感触がない。

表1:開放術・ロボット支援手術・腹腔鏡手術の比較

 従来手術ダヴィンチ腹腔鏡
大きい 小さい 小さい
体位 適度 時に過度 時に過度
気腹 なし あり あり
視野 1〜4倍 10〜40倍 2〜10倍
立体感 あり 強調 3Dカメラあり
器具の自由度 人の手と同じ 人より自由度多い トロカー*により制限
縫合操作 深い狭い所では困難 どこでも容易 極めて困難
出血量 時に多い 少ない 少ない
手術時間 短い 短い やや長い
緊急時 対応しやすい 対応しにくい やや対応しにくい
術後の回復 遅い 早い 早い
入院期間 長い 短い 短い
入院費用 やや安い 高い やや高い
機器のコスト やや低い 非常に高い やや高い

*トロカー:腹腔鏡・胸腔鏡では体壁に筒状のものを留置して、ここから種々の器具を挿入して手術を行います。

わが国におけるロボット支援(ダヴィンチ)手術

わが国では2010年にダヴィンチSの使用が認可され、2012年に前立腺癌に保険適用されました(図8)。同年ダヴィンチSiが導入され、2014年には腎癌の腎部分切除術に保険適用されました。2015年には13,000件以上の手術が行われていますが、ほとんどが泌尿器科で行われています。2016年6月現在、国内に228台のダヴィンチが導入され、米国の2,300台についで世界第2位のダヴィンチ保有国です。2018年には胃癌手術に保険適用が確実視されており、今後外科、婦人科、耳鼻科領域へと急速に広がる可能性があります。

(図8)日本におけるダヴィンチ手術件数をグラフにした画像
図8:日本におけるダヴィンチ手術件数

ロボット支援(ダヴィンチ)手術

ダヴィンチは米国Intuitive Surgical社製で、三つのパーツから成り、術者が座って手術操作をするサージョンコンソール、手術のベッドサイドで実際にカメラと3本のアームを動かすペイシェントカート、この両者をつないで画像をサージョンコンソールや周辺のモニター・録画装置に送り、術者からの指令をペイシェントカートに伝えるビジョンカートがあります(図1)。

術者は操作用のコンソールに座り、拡大された3Dのハイビジョンの画面を見ながら、カメラと3本のアームを、手足を使って操作します(図2)。自由度が人間よりひとつ多い手首を持つエンドリスト(図3)によりあらゆる方向の切開や縫合が可能となり、あたかも自分の手が患者の体の中にあるようなイメージで手術ができます(図4)。モーションスケーリング機能により、例えば3cmコントローラーを動かしても鉗子は1cmしか動かないFine設定が可能で、通常の指の動きで顕微鏡下手術のような繊細な手術が可能です(図5)。また手ぶれを吸収する装置もついており、術者の能力を最大限に引き出します。

(図1)ダヴィンチの三つのパーツを図示した画像
図1:ダヴィンチの三つのパーツ
(図2)コンソール内のファインダー(のぞき窓)と三次元(二眼)カメラを図示した画像
図2:コンソール内のファインダー(のぞき窓)と三次元(二眼)カメラ
(図3)エンドリストを図示した画像
図3:エンドリスト
(図4)操作ハンドルと縫合の様子を図示した画像
図4:操作ハンドルと縫合の様子
(図5)モーションスケーリング機能を図示した画像
図5:モーションスケーリング機能
 

ロボット支援(ダヴィンチ)手術の開発と世界の状況

ダヴィンチは1990年代に米国陸軍が、遠隔操作で戦場の兵士の治療を行う目的で開発を依頼しました。湾岸戦争が予想より早く終結したため民間で開発を続け、2000年にダヴィンチスタンダードが発売されました。2006年には第2世代のダヴィンチSが登場し、米国では年間65,000件あった開腹前立腺全摘術が2010年には11,000件に減少し、ダヴィンチによるものが67,000件と8割を超えるようになりました(図6)。2009年に第3世代のダヴィンチSi、2014年に第4世代のダヴィンチXiが発売されて現在に至っております。韓国、中国で国内に限って使用可能なロボットがあるのを除いては、ダヴィンチ以外に手術用ロボットは未だ登場しておりませんが、国内外で開発にしのぎを削っている状況で、数年後にはいくつかの機種の登場が期待されます。

(図6)米国における前立腺全摘除術の術式の年次変遷をグラフにした画像
図6:米国における前立腺全摘除術の術式の年次変遷

全世界においてダヴィンチによる手術は年間70万件行われており、診療科としては婦人科、泌尿器科、外科の順に多くなっております(図7)。適応されている臓器は、喉咽頭、食道、肺、心、胃、肝、膵、直腸、腎、膀胱、前立腺、子宮で、国により保険事情が異なるため一概には言えませんが、適応術式も年々増加しております。

(図7)世界におけるダヴィンチ手術件数をグラフにした画像
図7:世界におけるダヴィンチ手術件数

2017.9.5(文責)ロボット手術センター長兼泌尿器科部長 川喜田睦司