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しおかぜ通信

新型インフルエンザとその周辺

神戸市立医療センター中央市民病院 感染症科医長、呼吸器内科医長、 感染管理室副室長 林 三千雄

前夜

ここ数年、H5Nl型の強毒性の鳥インフルエンザが変異し、ヒトの間で流行するとの予測 が強まり、中央市民病院も平成17年より対策を練ってきました。平成20年からは神戸市内 の病院の有志が保健所と毎月勉強会を開き、地域全体でいかに対応するかを協議してきました。 神戸市医師会も同様に、保健所などと連絡をとり有事に備える体制を整えつつありました。

5月15日

平成21年4月末頃からメキシコ、アメリカ、カナダで発生していたH1Nl型の新型 インフルエンザが5月15日深夜に突然、神戸に現れました。
私は反射的に神戸市保健所に駆けつけたのですが、深夜の保健所は全職員が出務し、マスコミ までが入り乱れ騒然とした場面は今でも明確に私の脳裏に残っています。12時間後、当院は 神戸市内で第一号の発熱外来を立ち上げ24時間体制で疑い患者さんの受け入れを開始しました。 感染症病床(1種2床、2種8床)は半日で埋まり、24時間後には感染拡大期に使用する最大の 病床数であった36床を超え、感染症病棟を埋め尽くす勢いで患者さんは増加し続けました。 48時間後には患者さん受け入れのために確保していた病床をも占拠し、一般の患者さんが 入院している病床にまであふれそうな勢いになりました。5月17日、厚生労働省、神戸市 保健所などと協議し、軽症例は在宅での治療に切り替える方針が出された事により、医療体制 の崩壊は寸前のところで回避されましたが、以降も増え続ける発熱外来の患者さんに当院は 24時間体制で診療に当たってきました。現在は発生も散発的になり、発熱外来の患者さんも 減少しひとまず落ち着きをとりもどしています。新型、新型というから恐ろしい気がしますが、 現在のHINl新型インフルエンザの病原性は強毒ではなく、ほぼ毎年冬に流行る通常の (専門的には季節性といいますが)インフルエンザとあまりかわらないのではないかと 考えられています。それならば、今までのインフルエンザと同じように医療サイドも患者 サイドも対応すれば良いというところに落ち着いています。

*発熱外来というシステム*

新型インフルエンザ対策に発熱外来 というものがあります。何をするのかというと、熱を出した患者さんを新型インフル エンザの可能性がないとわかるまで、他の人と分離して診療に当たるための外来です。 診療することより他の人に感染させないことを優先したシステムですので、本来は毒性 が高く死亡率が5%~50%などと考えられていたH5Nl型の鳥インフルエンザではある程度 有効ではないかと考えられていました。
 しかしこの発熱外来には大きな欠点があることはあまり知られていません。熱を出す 病気はたくさんあり、中には本当に一分、一秒を争う病気があります。成人の敗血症、 小児の髄膜炎などは死亡率も高く後遺症を残しやすい重篤な疾患です。
新型インフルエンザが流行りだすと、熱が出た人はまず発熱外来へ行って新型インフル エンザでないことがおおむねわかってから他の病気を探し出すのですが、先ほど挙げた ような疾患の患者さんは対応が間に合わなくなってしまいます。しかも新型インフル エンザの検査は神戸市内では3カ所でしか測定できず、測定に要する時間は最短でも 4時間以上かかります。しかも発熱外来では感染対策上の理由から部屋や医師、装備などに 大きな制約がかかり、通常は救急部などの近代的な設備の整った場所で専門の医師が診察 、処置するのとは大きな差が生じます。
 従って、この発熱外来のシステムは時と場合により使い分けて行かなければならないし、 現在のH1N1型の新型インフルエンザにはこのシステムはむしろマイナス面が大きいのでは ないかと思います。

 

 

 

 

 *これからのつきあい方*

 現在の新型インフルエンザは今のところ、季節性インフルエンザと比べて重篤になる率の高い病原体ではありません。むしろ発熱する疾患、あるいは感染症の中では死亡率が低い方の病気でしょう。また2~3年もすれば大半の人がかかったことのある普通のインフルエンザになっていくと考えられます。とすれば本当は季節性でも新型でもどちらでもよいのかもしれません。科学が進歩したため豚からきた新しいインフルエンザというから焦ってしまいますが、専門家以外の人にしたらどちらでもよいのかもしれません。科学の進歩はありがたいが、問題はそれをどう受け止め、どう理解するかであって、きちんと消化できないとより有害な結果をもたらすのです。逆に新型インフルエンザが極端に怖がられる反面、季節性インフルエンザはあまりにも過小評価されてきました。
季節性インフルエンザでも、高齢者や免疫力が低下しているハイリスクの患者さんは毎年たくさん亡くなっています。季節性インフルエンザの恐ろしさは、感染力が高く毎年のように流行するため、そもそもの死亡率が低くても罹患する人が多いために、結果としてたくさんの死亡者を出してしまうことです。しかし、リスクが低い人たちにとっては、あまりにも注意を向けられることもなく、インフルエンザにかかっていることをわかりながら学校へ行ったり、職場に顔を出したり、中には旅行に行ったりする人もいます。これからは新型インフルエンザも季節性インフルエンザも同じように正しく理解し、冷静に対応する、今はこれが結論ではないかと思っています。

 

最終更新日 平成22年9月15日